PDFファイルはこちら↓

第19回全国市議会議長会研究フォーラム報告書

 

 全国市議会議長会研究フォーラム開会式

令和6年10月9日 正午頃、岩手県盛岡市内丸13-1トーサイクラッシックホール岩手(岩手県民会館)に到着。午後1時より開会式が行われました。

今回の研究フォーラムは「主権者教育の新たな展開」をメインテーマに開催されました。

開会式では、全国市議会議長会会長の坊恭寿神戸市議会議長よりご挨拶いただきました。

続きまして開催地であります遠藤政幸盛岡市議会議長より歓迎のご挨拶、内館茂盛岡市長よりの歓迎のご挨拶をいただきました。

 

 

 

 基調講演

基調講演は「人口減少社会における地域の未来図」と題して、菅義偉第99代内閣総理大臣が行う予定ではありましたが、国会日程の都合でビデオメッセージでのご挨拶となりました。

余った時間で、全国市議会議長会会長の坊恭寿神戸市議会議長より会長として参加者に地方議員の厚生年金加入を求める意見書の進捗について力強く提案され、全国での取り組みに広げてほしいと訴えられました。

 

 パネルディスカッション「地方議会の課題と主権者教育」

【コーディネーター】

静岡大学人文社会科学部法学科教授 井柳 美紀

アメリカ生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。宮城教育大学教育学部・准教授を経て、2011年静岡大学人文社会科学部・准教授に着任、2015年から現職。専門は政治学。近年は、政治と教育、シティズンシップ教育、地方選挙などを研究。昨年は大学で担当する政治学ゼミと静岡市選管とで投票率向上のための研究・提言も実施。

 

 

 

 

 

 

【パネリスト】

法政大学法学部教授 土山 希美枝

北海道芦別市生まれ。2000年法政大学大学院社会科学研究科政治学専攻博士課程修了。博士(政治学)。2001年龍谷大学法学部助教授、2011年に政策学部へ異動したのち同教授をへて2021年から現職。専門は公共政策論、地方自治、政治学。

 

 

 

 

 

 

 

一般社団法人WONDER EDUCATION代表理事 越智 大貴

1987年、愛媛県今治市出身。学生時代によのなか科に出会って以来、政治や選挙・よのなかをおもろく学びあい、みんなで創るシティズンシップ教育・主権者教育の研究・実践・場づくりを全国各地で展開している。高等学校で非常勤講師を務める傍ら、2014年にNPO法人を設立。2017年に総務省から「主権者教育アドバイザー」の委嘱を受ける。2022年より現職。こども・若者主導のよのなかづくりモデルを創るきびだんごプロジェクトを展開中。

 

 

 

 

 

 

読売新聞東京本社教育ネットワーク事務局 渡辺 嘉久

1987年早稲田大学政治経済学部卒、読売新聞東京本社入社。青森支局、社会部、政治部、世論調査部、編集委員、紙面審査委員会委員⾧などを経て、2023年から現職。選挙権年齢引き下げをきっかけに「若者と政治」の取材に取り組む。総務省「主権者教育の推進に関する有識者会議」メンバー、同省主権者教育アドバイザーも務める。

 

 

 

 

 

 

盛岡市議会議長 遠藤 政幸

1961年生まれ。富士大学経済学部卒業。平成11年5月から盛岡市議会議員を務め、連続7回当選。現在7期目。その間、観光対策特別委員会委員長、総務常任委員会委員長、予算審査特別委員会委員長、議会運営委員会委員長、第29代盛岡市議会議長を歴任。令和5年9月から、第31代盛岡市議会議長に就任。議員活動の傍ら、地域に寄り添いながら消防団分団長、学校法人評議員、保護司、少年補導員、日本公衆電話会東北統括支部支部長など、幅広く様々な活動を行っている。

 

 

 

 

 

 

 最初にコーディネーターの井柳氏から、「主権者教育の新たな展開」として、地方自治法改正も踏まえつつ、投票率の低下、無投票当選の増加、議員の性別や年齢構成の偏りなどの課題を抱える地方議会は、議会に対する関心を高め、理解を深める主権者教育を一層推進することが必要であり、出前講座や模擬議会など、議会自らが主体的に主権者教育に取組む事例が広がっていると発言。教育基本法の「政治的教育」について昭和44年の通知で「教師の個人的な見解や主義主張がはいりこむおそれがあるので慎重に取り扱うこと」としていたものが、平成27年の通知では「現実の具体的な政治的事業も取り扱い、生徒が国民投票の投票権や選挙権を有するものとして自らの判断で権利を行使することができるよう、具体的かつ実践的な指導を行うことが重要」と変化してきたことを紹介しつつ、今、主権者教育の新たな展開が必要な時期となっていると問題提起しました。

これを受けて、土山氏が「『誰がための主権者教育』か」をテーマに、主権者教育の主体は学校、教育委員会であり、議会はその主体や学生とどう連携するかであるから、「議会」が「主権者教育」していると称するのはやめませんかと発言。各地で取り組まれている「高校生議会」での議員との直接の語らいは学生の刺激となることは認めつつも、「高校生に作文(高校生議会の感想)を朗読してもらい、大人の側からのコメントで締めくくる」のでは、「教え育てる」ことにはならない。学校側の「議会」を使った教育プログラムの存在、議会側は高校生を若き市民(有権者)として受け止め、その声をどう政策に活かすかなど、関係者の真摯な取り組みが欠かせないと語った。

越智氏は「若者の政治・社会への意識から考える主権者教育の必要性」をテーマに、「WE CITY(キッザニア風こどもによるまちの運営)」「こどもワークショップ(社会の課題について意見交換するワークショップ、行政にも提案)」「こども議会(議員との交流会)」など13年間の主権者教育の取組を紹介した。その中で見えてきたこととして、「若者は政治や社会に関心が無いわけではなく、参加しても意味が無いと思っている。意見を聞いてもらえる、反映してもらえると感じられる機会を増やす必要がある」「学校現場における主権者教育において、政治的中立への過度な配慮があるので、議会は学校でもリアルな政治を扱いやすいように超党派で対応チームをつくるなど、役割を果たせる」「政治家との交流は、こども達の政治意識の醸成に大きく影響する」などの点を挙げた。

渡辺氏は取材経験の中で、高校生にインタビューしたとき、「政治のことを知らないので、間違ってはいけないから、投票に行けない」との声があったと紹介。正解は一つと限らないのだから、「自分の希望する未来を考えてくれる人を選んではどうかと話した」と、若者に「政治」は「未来」、「政治とつながる、政治を考える」ことは「自分の未来を創造する」ことになると伝えていくことが大切と語った。

遠藤氏は「盛岡市議会の取組み」を紹介した。同議会では、高校生議会を平成29年7月に初めて開催して以降、令和4年までで4回開催したほか、盛岡地域の大学に議員がでかけて学生と意見交換を行う「もりおかmiraiおでかけミーティング」を平成30年、令和4年と開催したとのことだ。高校生議会に参加した高校生からは「市政に関心を持った」「議会の役割が理解できた」などの感想が寄せられたと報告した。

 

【全体を通じて】

主権者教育=学校・教育委員会の取組みという認識とされやすいと考えていましたが、社会全体で考えなければならない問題であると感じました。

若者世代に、自分事として政治をとらえ、参加する仕組みを社会全体で構築しなければならないのではないでしょか?

 

 

 

 

 「主権者教育の取組報告」

【コーディネーター】

東北大学大学院情報科学研究科准教授 河村 和徳

1971年静岡県出身。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学後、慶應義塾大学法学部専任講師(有期)、金沢大学法学部助教授を経て現職。専門は政治学、近年は復興過程における政治と行政や選挙・議会のデジタル化などを研究。総務省地方議会・議員のあり方に関する研究会構成員や全国都道府県議会議長会都道府県議会デジタル化専門委員会座長、全国町村議会議長会町村議会議員のなり手不足対策検討会委員などを務める。

 

 

 

 

 

【事例報告者】

伊那市議会前議長 白鳥 敏明

1948年1月生まれ。工学院大学電気工学科卒業。平成20年6月まで長野日本電気株式会社取締役。平成26年4月から伊那市議会議員を務め、連続3回当選。現在3期目。令和2年5月から総務文教委員長、令和4年5月から令和6年5月まで第9代伊那市議会議長を歴任。市民に開かれた議会を目指し、高校生との意見交換会を開催し、若者の意見を聴取するとともに高校生からの請願を収受、また住民参加と議会機能強化のために、議会モニター制度や政策サイクル機能を制定。

 

 

 

 

 

四日市市議会議員(第83代議長) 諸岡  覚

1971年農家の二男として生まれる。94年日本大学農獣医学部卒業。2004年から四日市市議会議員を務め、現在6期目。教育民生常任委員会委員長、総務常任委員会委員長、都市・環境常任委員会委員長、予算常任委員会委員長、決算常任委員会委員長、議会運営委員会委員長、新総合計画調査特別委員会委員長を歴任。19年5月から20年5月まで議長を務め、若者を対象とした出張方式の交流を実施するため、現在の「ワイ!ワイ!GIKAI」の立ち上げに取り組んだ。

 

 

 

 

 

 

山鹿市議会議長 服部  香代

1962年熊本県山鹿市生まれ。熊本音楽短大卒業。音楽教室主宰。音楽療法士。2人の子どものPTA活動に16年間携わる。男女共同参画社会の実現を目指し、民間団体で活動。2013年、女性議員ゼロだった山鹿市議会議員に立候補し、初当選。2021年、5代目議長就任。くまもと女性議員の会会長。ローカルマニフェスト推進連盟元共同代表。女性ネットワークやまが顧問。鹿本高校同窓会副会長。「多様性が求められる社会で女性議員の存在は重要」地方議会人2023年8月号。

 

 

 

 

 

 

最初にコーディネーターの河村氏から、主権者教育の理想と現実の指摘がありました。
理想は①主権者教育は、基本的にシチズンシップ教育であるべき②地域社会の社会的課題を自ら認識し、経験を含めた形で社会を改善していく力を養う方向にもっていくべき③社会には多様な意見があり、多様な意見があることを理解する(ディベート)―ですが、現実は①知識の享受(制度の理解)が中心、正解を教えようとする②投票者重視(模擬投票)の教育③実施主体(教育委員会、選挙管理委員会等)の連携の不十分さ、などの問題を抱えているとのことです。そういったことを背景に、各市議会の取組み事例が報告されました。

 

○伊那市議会「高校生の議会傍聴と意見交換会の取組」

同市では平成30年の市議会議員選挙が無投票となったことで、議員のなり手不足に危機感を抱き、問題を放置せず同年6月には全議員参加の「魅力ある議会づくり検討会」を設置、若い人に議会への関心を高めるために、特に高校生を対象に議会傍聴、意見交換等の企画を決めました。傍聴は定例会一般質問、その後(日、場所は定例会と異なる場合もあり)、生徒3、4人と議員3、4人の小グループに分かれた意見交換となるようです。参加した議員の感想は「高校生の真剣に取り組む姿に感動した」「声を直接聞ける良い機会。今後も積極的に行っていきたい」、高校生の感想は「話しているうちに自分の意見を言うことができ、市のことをよく知ることができた」「議員さんに親身に話を聞いてもらえ、アドバイスももらえた」「将来、政治家になりたと思った」など、双方とも肯定的なものです。また、意見交換をきっかけに高校生から請願書や要望が出されるなど市政への参加意識が高まった様です。

 

○四日市市議会「ワイ!ワイ!GIKAI」

(ワイ=Y/Yokkaichi:四日市/Youth:若者、2つのY)

同市は以前から開かれた議会として市民向けに「シティーミーティング」を実施してきましたが、回を重ねるごとに参加者が固定、減少してきたので、令和4年から「ワイ!ワイ!GIKAI」を実施しています。各常任委員界が地域の中学校・高校・大学に出向いてテーマをもとに意見交換を行うものです。将来的には各種業界団体、各種労働組合など幅広い対象との交流を目指したいとのことです。

また、同市では高校生議会も開催しています。開催方法はテーマごとに委員会に分かれ、意見交換を行い、本会議場で意見書の採択を行います。

 

○山鹿市議会「山鹿議会が取り組んだシチズンシップ教室」

同市では「開かれた議会になっていない」「住民の理解と関心が得られていない」「議員のなり手不足」などの課題を感じ、また、議員のスキルアップが必要であるとして、議会として小学校でのシチズンシップ教室を開催しています。伝える内容は①市議会について知る②議員の仕事を理解する③選挙の意義や、投票の大切さがわかる、の3点です。実施にあたっては教育委員会、学校、選挙管理委員会などと協議し、協力を取り付けます。また、教材として使う絵本「ポリポリ村のみんしゅしゅぎ」の読み聞かせボランティアとして市民の参加も得ています。子どもたちからは「議員の仕事がわかった」「投票には興味がなかったけど、投票の大切さを知った」「議員の仕事をしてみたいと思った」など、議会への理解がすすんだとの反応があり、議員の側も職責の重さを再確認したようです。参加した市民ボランティアからは「議員の努力が見えた」「自分たちも選挙の意義や議員の仕事が理解できた」との反応があり、子ども以外にも波及効果が大きかった様です。

 

【全体を通じて】

全国各地で取り組まれている議会での「主権者教育の取組み」。正解も不正解もない取り組みで、各自治体の条件などにより様々な取り組みが行われる可能性を秘めている感じました。

貝塚の地で、若者、青年、子ども達に政治にかかわる意義などを伝えることも大切ではないでしょうか。

「自分一人が言っても仕方がない」という風潮を「たった一人の意見からスタート」させることも大切だと考えます。